今年のゴールデンウィークは私用でお休みをいただきます。
もしご来店を予定されていましたらただただ申し訳ございません。
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24〜25歳の頃、東京で短期のアルバイトを転々としながらフラフラとその日暮らしをしていた時期があります。
そんな中、データ入力かなにかの仕事で派遣先に出向いたところ初日からシステムがダウンして約5時間ひたすら待機、という日がありました。
そこでたまたま隣り合わせた同年代の男の雰囲気に自分と同じ匂いを嗅ぎつけた私。
話してみると「なんと」というか「やっぱり」というか、小説家の保坂和志氏 が好きだという共通点が見つかりました。
それがM君との出会いです。
ただ好きというばかりでなく、M君は保坂和志(の小説世界)的生活をしていました。
東中野だったか下落合だったか中井だったか、たしか私も一度お邪魔しましたけれども、古い戸建を数人の友人と共同で借りて暮らしていたのです。
その家には日々さまざまな人が遊びに来るだけでなく、近所の猫も気軽に出入りしているのだとか。
青春ものの日本映画や若手ミュージシャンのPVに出てきそうな、錆びた物干し台の似合う小さな屋上もありました。
少し前までは〈多くの古書店主を輩出している有名な古書店〉でアルバイトをしていた。
今はフリーターだが自分も将来は古本屋をやりたい。
最近はフリーマーケット等のイベントに出店して自分の本を売ったりしている。
M君はなんだか物語の中の人みたいでした。
今になって冷静に考えてみるとM君と過ごした期間というのはとても短く、酒を酌み交わした回数も片手で足りる程度だったのかもしれません。
しかし東京での日々を思い返す際、不思議とM君の顔はわりと序盤に出てきます。
最後に会ったのは2016年。
サラリーマンだった私が中目黒の古書店で出張コーヒーをさせてもらった日だったと記憶しています。
その時点で5〜6年ぶりの再会、共に30歳を越えていました。
不慣れ且つせわしない環境で二三の言葉しか交わせませんでしたが、今は(たしかWEB系の)定職に就いているのだと聞いて「やっぱり」と思いました。
幻滅したとかそういう意味ではなく「30だしそりゃみんなまともな大人になっていくよな」という、どちらかというとむしろ置いて行かれたような気分で。
そこから特に連絡を取り合うこともなくさらに7年が経過し、時は2023年4月。
年に数回しか投稿されないM君のTwitterに動きがありました。
「古本屋を開業しました」
「なんと!」と同時に「やっぱり!」と思いました。
それは激しく嬉しいタイプの「やっぱり」でした。
後付けだと言われればそれまでですが、最初に嗅ぎつけた自分と同種のあの匂いは「勤め人が勤まらない人間」の匂いだったのだと思います(失礼)。
きっと滋味深い古書店になると思います。
古本屋 汀線 https://www.teisen-books.com/
さっそく『記憶のつくりかた』という詩集を買いました。
私の記憶力はまるで信用ならんので、この文章でも意図せず無自覚に「つくって」いる部分があるかと思います。
あしからず。
古書好きのあなたはぜひ一度覗いてみてください。